アジア力の世紀――どう生き抜くのか (岩波新書)

アジア力の世紀――どう生き抜くのか (岩波新書)

 

 この本の一番面白いところは,連合(同盟ではない)を組まない国はダメだということだ。その典型例がニホンとアメリカ! 痛快ではある。少しEUやASEANを買いかぶりすぎの感はあるけど…。

アヘン戦争以前ー1820年当時ー世界全体のGDPで中国一国が33%を占め,アジア全体では6割に達していたのに,アヘン戦争米墨戦争インド大反乱を経た19世紀中葉には,中・印の比率は合わせても1割を切り,逆に欧米が世界の過半を制するに至っていた。… 世界は,GDP規模で見る限り,いまニ世紀前の時代に立ち戻りつつある。

日本人や日本文化だけが,精巧な「擦り合わせ技術」という独自の優位性を持っているわけではない。…ネットワーク分業とモジュール化でアジア力を強め,地域協力の制度化の輪を広げていかざるを得ない。

中国はもはや「大陸国家」ではない。1万8000キロの海岸線を持ち,自国貿易量の9割を海上輸送に依存し,世界最大の市場と工場と港湾を擁する,もう1つの「海洋国家」へと変貌している。

日英同盟では,第一次大戦後にその継続を拒否された。日独同盟では,ドイツは日本を無視して敵国ソ連との不可侵条約を結んだ。「同盟は永遠なり」と信じ切って,同盟国に裏切られる,日本独特の同盟信仰からそれは来ている。

豊かな食文化と,健康で安全な「フード・ジャパン」とで,日本の農は,六次産業として大きな潜在力を持っている…日本農業再生の切り札として,いま巨大な市場が,中国を中心にアジアへ広がっているのである。

中国の軍事力と軍事費は,米国と比べるなら,依然として小規模なものに止まり続けるという現実だ。…2015年前後に米国GDPの半分近くなっても,軍事費で算定される中国の軍事力は,米国の6分の1以下であり続ける。

もし中国が,最小限の核報復能力を持つとすれば,たとえ「核小国」でも,第二撃(報復)行使の脅しによって,第二次大戦終結時に日本を襲ったヒロシマナガサキの悲劇を回避できる。中国流の核戦略思想における,確証破壊戦略による核兵器の位置付けである。

国連合(ASEAN)が,人口5億7000万人の安くて良質の労働市場と成長する経済を「磁力」にする。その磁力によって日中韓の投資を引き寄せ,地域統合の「磁場」の役割を果たす。

領土の最大化を図る19世紀テリトリー・ゲームの呪縛を,ドイツは早くに解き,欧州の中で生きる道を選択した。…ドイツは,生産至上主義的な20世紀プロダクション・ゲームの呪縛を早くから解いて,市民主義的で持続可能な資本主義の道を歩むことができた。