作者は推理小説作家らしいが,全く知らない。1930年代のパリの市街やメトロを歩き巡り逃げ回るシーンは非常に映像的だ。満州事変の年,パリの植民地博覧会に連れて来られたニューカレドニア先住民カナックの男ゴセネが,相棒のバディモアンとともに,ワニと交換で!ドイツに送られた恋人?ミノエを捜して奮闘するも…というのが基本的な筋なのだが,その途中でフランス人官憲やお偉方に一般大衆,親切なアフリカ人,植民地主義を批判する左翼らに遭遇する。そして,バディモアンは警官の弾に殺され,ゴセネにも危機が迫るが,「自分が目撃したものに関わりがある」という平凡な労働者カロの勇気に救われる。数箇所,1980年代のニューカレドニア独立運動の現場が挿入され,ラストにカロの意外なその後が明らかになる…。
セネガル人の発言「白人の兵士は突撃しようとしないから,将軍が祖国を守れと命じるのは,おれたち植民地出身の狙撃兵なんだ。おれたちは朝早く,防毒マスクもかぶらずに,塹壕から外に出された。…おれは砲弾の穴に飛びこんだ。そこには一体の死骸があった。その血を自分に塗りたくり,傷ついたように見せかけた。頭の上を雲が通りすぎていった。おれはそんなに吸わずにすんだ…」
バディモアンの発言「われわれカナックに国では,尊敬は目の色のように生まれで決まるものではない。生涯を通じて決められるものだ」
カロの発言「人は行動を起こす前にあれこれ考える。それがいざというときに何もしない格好の口実になってしまう」