若くして死んだ妻の手記をメインにした人間模様。

いきなりシンガポールの子どもたちのカネをせびる場面での夫との亀裂。インド洋のアンヌイ。前の恋人鞠子が綴った恋文への伸子の嫉妬。

宮村はキュリー研究所でラジュームの研究をしているのだな。「貧しい人の味方になる」などとは考えていないが「人間の福利を増進したい」。「音楽や美術は、人間の至福と深い関係があるもの」だと述べる。

娘に鞠子の地位を占めることを願って万里子と名付ける倒錯と葛藤。

次第に病が重くなり、スイスへの転地療養。

しっかし、妻も子も持ったことないのに、こんな小説を味わえるようになるとは…私も老いて病を得たからしらん。

最後の万里子の手記にいう。母が一途にすがりつくように父を愛そうとした態度が悲しいと。自分を生かすことで、良人をも生かすという道が、女性にとっても本道ではなかろうか、と。2020年にも充分本質的な問いかけになっているかのが掘り出し物。