イスラーム思想史 (中公文庫BIBLIO)

イスラーム思想史 (中公文庫BIBLIO)


高名なこの筆者の文章を読むのは初めて。こうした哲学者にありがちな曖昧朦朧を是とするタイプとはまるで違って実に明晰な文体なのだった。とはいえ,9割方理解できないのではあるけれど…。「宗教としてのイスラームにとって最も重要な根本概念である『啓示』も,ファーラービーによれば本当は哲学者が直接に獲得する形而上学的認識を指すべきであって,…ムハンマドは,最高真理を形象化した詩的天才としては偉大であるが,哲学者よりは一段下位に立つものと考えざるを得ない」とか「(イブン・トファイルによると)最高実在に触れた哲学者の位置から見下すと,宗教は確かに大したものではないかも知れぬ。しかし哲学者は,自分一人の事ばかりでなく,広く社会一般の進歩をはかるため,大衆の生活に及ぼす宗教の大きな恩沢をよく考えて,決して宗教を軽蔑したり,撲滅したりしてはならない。なぜなら大衆は,これによらなければ教化されず,これによらなければ救いを得ないからである」とかいう辺りはなかなかにコーフンした。