忍ぶ川 (新潮文庫)

木場の風には目に見えない木の粉がどっさりとけこんでいて、馴れない人の目には焚火の煙のようにしみるのである。

洲崎は異様な街であった。けばけばしい彩りのちいさな家々が、せまい路地をはさんでぎっしりと軒をつらねていて。屋根という屋根、窓という窓には、赤や白の布ぎれがいっせいに風になびいていた。

これらの描写があれば、もう東北やら北関東のどこやらとか三宿とかはもうどーでもいーや。

途中からは愛妻物語ですわね。脳溢血は、痰が出たらオシマイなんだって。痰を割りばしで巻き付けてとるんだって。

にしても、東北は死と失踪に溢れていることよ!

「驢馬」は戦時中の中国人(満州人)留学生を主人公にした、興味深い話。右翼の兵頭やイヌの五郎やら同じ満人留学生の戦やらニホンジン同級生の早瀬やら飛田やら、尊大でありながら卑小なる人物&イヌたち。電話交換手の関さんが妙にカワイイ。この文庫の白眉であろう。