O・ヘンリ短編集 (1) (新潮文庫)

O・ヘンリ短編集 (1) (新潮文庫)

 

 いきなりの「警官と賛美歌」が良い。牢獄で越冬しようとするホームレスが警官に捕まろうと犯罪を犯そうとするも…って展開は21世紀の日本のお話みたいだ。「運命の衝撃」もホームレスの話だが,こちらは幸運と不運の残酷さだ。「赤い酋長の身代金」はクソガキに振り回される大人たちのお話で,何とも皮肉が効いている。「アラカルトの春」は心あたたまる。サラーがタイプ打ちしたメニューを見て実際の料理を貪り腹も温めたいほどだ。「ハーグレイブズ…」は正に演劇的な小話。「南部」やら「黒人」やらのステレオタイプさえ気にならなければ…。「善女のパン」はそのままアニメやミニドラマになりそうな誤解譚。これを「わからず屋のドイツ系」ととるのは穿ち過ぎか? 「ラッパのひびき」はハードボイルドの卵。「よみがえった改心」「黄金の神と恋の射手」は既視感のある話。こんな映画なかったっけ? そして,どの話も米国がまだ全般に貧しかった時代。酷薄ではあっても,何処かまだ感情が信用できた時代かもしれぬ。なにせオー・ヘンリー自身が一筋縄ではいかない経歴の人物だから。☆☆☆