押川春浪集 ――明治探偵冒険小説集3

押川春浪集 ――明治探偵冒険小説集3

 

 ・銀山王…アデンを舞台にした鞘当て話は,荒唐無稽なれど,十分現代の鑑賞に耐えうる。明治期における人間の権利の平等とは下のような理解であったものか。

楽みのある処にはそれ相応の苦みを与え,苦みのある処にはそれ相応の楽みを与え,なるべく社会万人の幸不幸を平均すると云うのが,俺の, いわゆる公平主義だ,復讐主義とは,人は受けし怨恨と同じ怨恨を復するが正当だと云う主義だ,この復讐主義も公平主義から来ておるのだ

そしてまた,美人の定義も随分とジェンダーフリーに思われる。

「絶世の美人と云うと婦人のようですが,男の方ですよ」 「貴方を美婦人社会の女王に譬うれば,私の旧の主人は美少年社会の帝王です」

・世界武者修行…豪傑クンの忠君愛国話だが,右翼的というよりアナーキストに近い。ってか,少し井上ひさしを想い出した。世界って大風呂敷を広げておいて,結局,上海郊外と桑港(しかも,こっちは拳闘話のみ)かよ! 団金東次の内面が活写されるのみで小説としては欠陥だらけ(まぁ,実質,講談だしね)だが,紅蓮嬢だけはカッコイイな~。東洋人としての連帯感は日清日露間といえども,未だ残ってはいたものと見える。

本邦にあっては盛んに忠君愛国を唱え,青年書生輩を瞞着せんが為に日本魂を号吼し,洋人を罵り,耶蘇教を排斥するの徒にして,足一度海外の地に到ればその卑屈なること腐女子の如く,洋説に媚び,洋風に諂い,金髪碧眼女子共の前に立っては,見苦しくも日本婦人の弱点を指摘して,彼らが一瞥の愛隣を乞う者すらあり,而してその徒日本に返り来れば再び忠君愛国日本魂を吹く,愚劣,卑劣,これを何とか謂わん……単に貧弱なる朝鮮を凹まし,老朽せる清國を破りしぐらいを以って満足し,欧米諸国が東洋に日本あるを知りしとて自慢するが如きは以の外

我国人ややもすれば支那人と見て,一概にチャンチャン坊主,と嘲り,豚尾漢と笑い,姿勢の無頼漢はしばしば無法非道の恥辱を与う。何ぞ知らん桑港に於ける我同胞は,ジャップと呼ばれ,助平と罵られ,常に碧眼の無頼漢,縮れ毛の餓鬼共より謂おうようの無き恥辱を被るのである。汚辱を与うる者非か,汚辱を被る者非か,共に非なり

・魔島の奇跡…コレはつまらん。駄目。論評に値しない。

☆☆☆