ある晴れた日に (岩波現代文庫)

ある晴れた日に (岩波現代文庫)

 

 「飛行機に乗っているとああなるのかしら? きっと地上のゴタゴタしたことが,気にならなくなるのでしょう,つまらなくて,滑稽に見えるのね。飛行機では生きているのが不思議なくらいでしょう,自分が今生きているということで一杯で,他のことは考えられないのよ。あたしだって,焼けだされてから,そうなった。それがもっと徹底していて,一寸世の中になじめないという感じ。何処か別の星から来た人みたいだったわ。戦争についてはあたしと意見がちがうけれど,話していると気持がよかった」というあき子の義弟評価は,まるで風立ちぬ風で呆然。

聡明な人妻で手の届かないあき子と,空襲という極限状況の中で親しくなる看護婦のユキ子と,作者本人でもあろう太郎との三角関係(にはなっていないのだが)としても下世話に読めましたよ。