図書館の最上階の郷土資料コーナーの一番右隅にあった。「武蔵野に散歩する人は,道に迷うことを苦にしてはならない」「林と野が斯くも能く入り乱れて,生活と自然とが斯の様に密接して居る処が何処にあるか」「兎角武蔵野を散歩するのは高い処高い処と撰びたくなるのはなんとかして広い眺望を求むるからで,それで其の望は容易に達せられない」「同じ路を引きかへして帰るは愚である。迷った処が今の武蔵野に過ぎない」「さて一種の濁た色の霧のやうなものが,雲と雲の間をかき乱して,凡べての空の模様を動揺,参差,任放,錯雑の有様と為し,雲を劈く光線と雲より放つ陰翳とが彼方に交叉して,不覇奔逸の気が何処ともなく空中に微動して居る」などというツルゲーネフワーズワースの影響深い名文が味わい深い。国分寺と武蔵境の間には駅がなかったのだな。