蒲団・重右衛門の最後 (新潮文庫)

蒲団・重右衛門の最後 (新潮文庫)


田舎出のハイカラ娘・芳子に崇拝される作家(といっても生活のため地理書の編集をしているのだが)・時雄の懊悩が意外にも面白い。特にしょーもない男・田中に惹かれて汚れていく芳子をジリジリと嫉妬に駆られながら手を拱いている展開とか笑える。ラストの「夜着の襟のビロードの際立って汚れているのに顔を押附けて,心のゆくばかりなつかしい女の匂いを嗅いだ。性慾と悲哀と絶望が忽ち時雄の胸を襲った」の部分は脳カノを決定的に喪った寂しさを余す処なく変態的に描いていてよい。蒲団ってタイトルも凄い。
「腸の一部が睾丸に下りている」という奇病のため? すっかり性格が歪んでしまい(←いーのか,こんな俗流環境決定論で(-_-;)),放蕩と悪事を繰り返す重右衛門。その情婦となった身寄りのない娘。放火を通じて心を通わせる…ってこりゃ八百屋お七か?と客観描写の中に激しい情念を噴出させる部分は見事。
…って俺,褒めすぎじゃんw