三四郎 (岩波文庫)

三四郎 (岩波文庫)

 

 食えない漱石彽徊趣味の高踏派!)だが,さすがにこれはさらっと読めた(今更,猫や坊っちゃんでもあるまいし)。うん,美禰子ミステリアスだわ。広田先生は何だか身につまされるものがある。そして与次郎,宗八,よし子…皆さんキャラが立ってるわ。本郷谷根千辺りの描写も趣深い。しかし,こういう小説を読むと,大学を理系だけにすることの愚かさを痛感せずにはおられまいに。☆

自然を翻訳すると,みんな人間に化けてしまうから面白い。崇高だとか,偉大だとか,雄壮だとか…人格上の言葉に翻訳する事の出来ない輩には,自然が毫も人格上の感化を与えていない。

美しい女性は沢山ある。美しい女性を翻訳すると色々になる。…自己の個性を完からしむるために,なるべく多くの美しい女性に接触しなければならない。

三四郎の眼には,女の足が常の大地を踏むと同じように軽く見えた。この女は素直な足を真直に前へ運ぶ。わざと女らしく甘えた歩き方をしない。

昔は殿様と親父だけが露悪家で済んでいたが,今日では各自同等の権利で露悪家になりたがる。…形式だけ美事だって面倒なばかりだから,みんな節約して木地だけで用を足している。甚だ痛快である。天醜爛漫としている。