マリアニーナとランティ夫人のお話かと思いきや,なんとサラジーヌとザンビネッラのア~ッ!!なお話の表題作が結局一番おもしろかった。「パリは…恥ずべき財産でも,血塗られた財産でも,なにもかも受け入れて,犯罪も不名誉も,パリに来れば,安全にかくまってもらえるし,同乗者にも出会えるのですから。パリで住処をもたないのは徳だけね」という結語もよろしい。「わしはひとりでヴェネチアを去った。有罪を宣告され,わしの財産は相続人たちに回されてしまったよ。…わしはミラノに行ったのさ。…ミラノ公国にとってわしの事件などどうでもよかったのさ」というファチーノ・カーネの独白に通ずる。「メロンはまるでネズミイルカのように息を切らせ,カボチャに生えたカブの根で歩いていたが…妻と娘という人間の形をした野菜を引き連れていた。…そのあとについてきたのが,若いアスパラガスだった」なるファンタジックな俗物出世画家のお話も悪くない。でも,入れ子構造の最終話は3回読んだけど,ワケワカメだったわ。「恋をすれば,どんな女だって,才気と文体くらいは授かるさ。だからフランスでは,文体は言葉から生じるのではなく,思いから生じるということの証明になるのさ…感情がいかに論理的かってことを」という部分だけだな。