すみだ川・新橋夜話 他一篇 (岩波文庫)

すみだ川・新橋夜話 他一篇 (岩波文庫)

 

 「東京市街の美観は散々に破壊されていた中で,河を越した彼の場末の一劃ばかりがわずかに淋しく悲しいの眺望の中に,衰残と零落とのいい尽し得ぬ純粋一致調和の美を味わしてくれたのである」というのは滅びゆくものへの叶わぬ追悼であるが,空々しいともいえる(何しろ大久保の自宅の机ではザラツストラが待ってるのだ)。盲目の男の唸る歌沢節の描写は,しかしとても良い。

すみだ川は,長吉(画学と習字と三味線が得意だが,機械体操だの寄宿舎生活だの鉄拳大和魂だのが苦手)とお糸(長吉より2つ下なのに早熟で姉御肌)の切ない擦れ違いを描きつつ,主人公は飽くまで蘿月なのだ。喜怒哀楽を発揮して黙々と働き続けた人々も結局は「この世の中に生れて来ても来なくてもつまる処は同じようなものだった」という浮世の諸行無常。ラストの蘿月の決意にはオリョリョ(^m^;)

新橋夜話は,小説というよりメモランダムみたい。和服の知識がないのでサッパリ情景が掴めない(*_*; 中では「五月闇」が最も面白かった。☆☆★