関東大震災 (文春文庫)

関東大震災 (文春文庫)

 

 過半はドキュメンタリーであるのだが,さすがに小説家の手にかかると臨場感が半端ない。とりわけ,旧被覆工廠跡や吉原の池や横浜の高台や隅田川などの描写! そして,大森と今村の暗闘? しかし,朝鮮人に対するデマはむしろ警察が流したと考えられているのだが,自警団=ザイトクが警察を脅したり圧倒的な権力を持っていたように描かれているのはどうなんだろ?

橋が焼け落ちた原因は避難者の家財道具に延焼したためという話は説得的。

一般の日本庶民は,朝鮮人に対して罪の意識を抱いていたが,社会主義者は国家秩序転覆を企てているとして忌避する傾きが濃かったというのは,当否はともかく,小説家の感覚というものか。レーニン号を打ち払ったのも,東北大震災の時に中国や朝鮮の支援を殊更無視したこの国の悍しいメンタリティである。☆☆★