かわいい女・犬を連れた奥さん (新潮文庫)

かわいい女・犬を連れた奥さん (新潮文庫)

 

 私の買った本は六刷73年。36年ぶりに読んだ。チェーホフのユーモリスムとペシミスムを随所に感ずる。

芸術家は現在の体制を支持しながら、残忍で不潔な動物を楽しませるために仕事をしているんですから(中二階のある家)

人類はありがたいことに進歩しているからやがては旅券だの死刑だのというものはなくてもすむようになるだろうと言う(イオーヌイチ)

一般に女との付合いというものは初めのうちこそ人生を楽しく豊かなものにする甘い軽やかな事件のように見えるけれども、まともな人間、殊に尻が重くて優柔不断なモスクワっ子の場合、抜き差しならぬ時代に陥ってしまうのである(犬を連れた奥さん)

イギリス製のウオッカ一杯でもう酔っぱらってしまった。何から作ったか知れたものではない、この気味の悪い酒を飲んだ者は、まるで殴られでもしたように意識が混濁してくるのだった(谷間)

ああ、母なるロシアよ! 汝はいまだになんと多くの怠け者や役立たずを背負っていることだろう! 僕のような人間をなんと大勢(いいなずけ)