黒猫・アッシャー家の崩壊―ポー短編集〈1〉ゴシック編 (新潮文庫)

黒猫・アッシャー家の崩壊―ポー短編集〈1〉ゴシック編 (新潮文庫)

 

 ・黒猫…30年ぶりくらいに読んだけど,あーこんな話だったっけ。「天邪鬼こそは人間の心を司る最も原始的な衝動のひとつだとーー人間の人格を導く分割不能な基礎能力ないし情緒のひとつだとーーいうことも確実なのではあるまいか。人間は,何かを『してはいけない』と熟知しているからこそ数限りなく最悪なる行動に出てしまうのではあるまいか? 人間には,まさしく『破ってはいけない」とわかっているからこそ,いくら優れた判断力の持ち主であったとしても,法律なるものを破ってしまう永続的な傾向があるのではないか?」そして,この話の場合,そのきっかけはアルコールなのだ。

・赤き死の仮面…ツマラン

・ライジーア…後妻に先妻が乗り移って何度も蘇生するお話。ロウィーナさん(´・ω・)カワイソス で,こっちは阿片ですかい?

・落とし穴と振り子…何だかブニュエルの映画を想い出したけど,江戸川乱歩にもこんなんあったような…。キリスト教絡みだと糞詰まんなくなるけど,紀元前以来の物理学とネズミという生物繁殖学は原初的ざわわ感で悪くない。

ウィリアム・ウィルソンドッペルゲンガーのお話。神童からエリートになって酒と博打の日々。賭博で嵌めたと思った瞬間,自らの分身が全てをばらし転落。モラルのコントですかね?

・アッシャー家の崩壊…うーん,コレスポンダンスってツマランよなー。ロデリックの神経疾患は,「五感が以上に研ぎ澄まされ,極端に薄味のものしか食べられず一定の繊維の服しかまとうことはできないし,花の香りは何を嗅いでも押しつぶされそうなきぶんになるばかり,わずかな光を浴びるだけでも眼を痛めてしまう。…弦楽器の音色を聴くときだけが,恐怖を感じずにすむ瞬間なのである」と説明されていて興味深い。何かでも,良くも悪くも20世紀前半のシュールレアリスム小説みたい(時系列逆だけど)なんだよなー。

☆☆★