ずばり東京 (文春文庫 (127‐6))

ずばり東京 (文春文庫 (127‐6))

 

 五輪直前のルポ。ヴァイタリティ溢れる文章群である。☆☆☆

たいていの二人づれはつつましやかだった。朝の軒先のスズメのようにおずおずしていた。 (深夜喫茶)

あなたは昔の兵隊仲間の恋人にそっくりだ。…さわってみると雁がくわっとひらけてこわいような怒脹ぶりだった。(タクシー運転手)

位牌も,果物も,造花も,みんなおとしもののなかからとって間に合わせたんです。私が死んてもこんなに果物はあげてもらえないですよ。(駅の遺失物係)

日本は海のなかの孤島だったので,海岸沿いに工業基地と軍事基地,ゲンコツと男根をふくらます工夫にふけっただけだった。(東京タワーから)

ずいぶんたくさんの日本兵があのあたり(インドシナ)で現地人に帰化したんじゃないかな(渡し守一代)

大企業の大工場で働いている人の小指と中小企業の町工場で働いている人の小指とでは,おなじパーツであっても値がちがってくる。(労災病院)
土地の高い区からきたぶんは芝浦へいきおいよく急行でいきますが,土地の低い区からきたぶんはよどんでしまう。…エイヤッといきおいをつけてやらなければならない…大手町にあるポンプ場がこれをするのだ。(糞尿処理場)

ホテルの工事などは値がよく地下鉄工事がいちばん安い。けれどもモグラをしていると暗がりだからサボりやすいということがある。同時に落盤や崩潰という危険も高まる。(東京飯場

左翼運動や自由主義が弾圧窒息させられると島国の闘士たちは海外亡命できないので紙芝居のなかに亡命した。(紙芝居屋)

入口が坂になっているから客は足速くトットと馬券を買いに走るが,レースがすんでみると,同じ坂をのろのろぐずぐずとあがらなくちゃいけねえ。(予想屋)

このあたりの子供は粗暴で,歌が下手になった。日光へ修学旅行にいったら旅館の主人に何と喧嘩好きな学校だろうといわれた。(横田基地

もしあなたが率直と平等を徹底的に愛して虚栄を排されるならば,江戸川区の瑞江の火葬場へいけばよろしい。…手首一つ,足首一つでも焼いてもらえる。(葬儀場)

日本選手団は男も女もひしと眦決して一人一殺の気配。歩武堂々,鞭声粛々とやって参ります。なにしろ鬼だの魔女だのというのがおりまして,日頃練習のときは秋霜烈日,「死ねッ!」とか「泣けッ!」とか「バッキャロ」「家へ帰れ」などという声のかかるまぞひずむ同情なのですから…。(オリンピック)