愛と憎しみの新宿 半径一キロの日本近代史 (ちくま新書)

愛と憎しみの新宿 半径一キロの日本近代史 (ちくま新書)

 

 辛うじて70年代末~80年代前半の新宿はぶらぶらしていた世代だが,筆者が洗濯屋の息子とは知らなかった。「三つの店がモルタル造りの一つ屋根の下にあった。信じられないかもしれないが木造家屋なのである。歩くと靴底を通して感じる床が柔らかい。背中合わせの三軒は実はトイレ奥の裏口で繋がっている。…奇妙なのはここに棲み着いたネズミのように通路をうろつく高校生たちがいたことである」なんて描写はよく分かる。いうなれば街と室内の境界が暗幕一枚って感じだったものな。若松孝二の映画についての「男根主義的な不快さがまったく感じられない。むしろスクリーンから流れ出てくるのは弱々しい男たちが傷ついて呻く声なのである。自分自身を嘲る掠れた笑いさえ聞こえる。…映像が朦朧とした睡眠のリズムを秘めているからだ」なんて批評も説得的である。現在の新宿のトポスについては何も知らないが,一周回ってアンチ資本主義の濁流は蠢いているのだろうかね? ☆☆☆