眼と風の記憶――写真をめぐるエセー

眼と風の記憶――写真をめぐるエセー

 

 海外を歩く面白さは,まずは文化の異なった暮らしぶりに接する楽しさと,その風土が膨大な時間をかけて造形した自然に出会えることにあるのだが,記憶の底に沈んでいたものがふとしたはずみで思いがけなく揺り動かされたりする個人的体験にもあるようだ。

インドの稲作の村やイスラム教寺院のある山あいでの集落での暮らしぶりに,昭和三十年代の醍醐村(現寒河江市)の生活を彷彿とさせられることも多い。ふと記憶がかき混ぜられて,忘れていたことが浮かんできたりする。南国の椰子の村やコーランが響く集落がむかしの故郷と似ているといえば,奇異に聞こえるかもしれない。だが,消費経済に過度に依存する前の自給に頼る暮らしは,古今東西似ているのが当然なのだろう。しかも人情までもが。

 という辺りが面白かった。写真と文章が必ずしもマッチしているようには思えないし,固有名詞(人名や地名)に必ずしも興味があるわけでもないのだが…。☆★