奇想の系譜 (ちくま学芸文庫)

奇想の系譜 (ちくま学芸文庫)

 

 正統なる日本画なるものはちぃとも面白くないが,異端とされたヘンタイ絵画が現在ではむしろ奇想こそが主流となっているのではないだろうかね。そういう意味では,もはや古典と呼ぶべき著作。「山中常磐」の「縦割りされた切り身」とか「寒山拾得図」の「笑う人物の口もとからあごにかけての気味悪いかたち」とか「鶴図襖」の「歯の生えた喙を開いて恐龍めいた面相の鶴」とか「群仙図屏風」の「水死体のように蒼ざめて膨れた腹の妖怪風蝦蟇仙人が,美人に耳垢をとらせている」とか「山姥図」の「老醜のすさまじさ,いやらしさ」とか「東都首尾の松」の「船虫や蟹が,何やら放射能を浴びてふくれあがった怪生物めいて見える」とか,筆者の慧眼が光る。