版画―近代日本の自画像 (1961年) (岩波新書)

版画―近代日本の自画像 (1961年) (岩波新書)

そうなのだ,版画というと江戸の錦絵というイメージが強すぎるのだが,幕末から大正辺りまで歴史的事象のアイコンとして登場するのは版画なのだよな。筆者の筆も硬派である。「倒幕派の,民衆一揆をそらし,幕府の支配力をまひさせる計画は成功した」「庶民女性のものでない洋装,しかも装飾多い姿を浮世絵師がかいた。写生する必要もなく,欧化強行の波で海外から入手できるスタイルブックをノリとハサミにして,かいた。そして一連の日本のモード版画を世に送った」「夢二こそは日本の近代印刷の歩みのなかで最も巧みにアトリエと工場とを結んだ街の版画家であった。しかし,人気への安住とむなしい主題のくりかえしがくる。…今日の五月祭のことも知らなかった――というその主人公の方に歩む人だった」