前衛の遺伝子―アナキズムから戦後美術へ

前衛の遺伝子―アナキズムから戦後美術へ


・今日の現代美術に至る日本の前衛芸術の歴史には,社会思想との関わりで問うならば,「爆発」をともなうアナキズムがずっと底流に流れていたのではないか。
・昭和初頭のエロ・グロ・ナンセンスの流行は,その漫画家たちがプロレタリア美術を含む労働運動に刺激を受け,またそのイメージを取り込んだことで,その後の軍国主義はもちろん,戦後のいわばカストリ雑誌の時代とも一線を画す輝きと暗い闇を持っていたのではないだろうか。
・松本竣介のエピゴーネンであることは,必ずしも悪い意味ではなく,むしろ,革命の芸術における表現の系譜が,松本竣介にもつながる大きな広がりを持っていたこと,そしてその系譜に高山良策も連なっていたことを意味するだろう。
・大人向けに作った紙芝居という表現形式が,本来の目的を越えて,戦後前衛美術史を語る上で欠かせない作品へと転じたのは,それが既存の「美術」など入り込めない前線の「非芸術」的状況から生まれたためでもあろう。前衛美術とは,「美術」の制度から離れて非「美術」へ越境してゆく過程でもあるからだ。
…なんて辺りは面白かったけど,末尾の自分語りとゲイ大人脈への媚は白けるな〜。まぁ,望月桂というヒトは初めて知ったけど,興味が湧いた。あと,岡本太郎イサム・ノグチ評「彼の彫刻ほど泥臭さというものと無縁な作品は珍しい。私のように芸術は不快なものでなければならないという信条の作家とは正反対である」ってのは笑えた。