群衆心理 (講談社学術文庫)

群衆心理 (講談社学術文庫)


基本的に保守的で陳腐な内容で「アングロ・サクソン人,殊にアメリカのアングロ・サクソン人にあっては,この民主主義という同じ言葉は,個人意志の強烈な国家の消滅を意味し,警察と軍事と外交関係を除いては,何ものも,教育すらも,その指導が国家にゆだねられていないのである」とまるでネオリベ顔負けの夜警国家翼賛論者なんだけど,「間接税は,たとえ法外なものであろうとも,群衆には必ず承認されるであろう。間接税は,日々,消費物件から極めて少額ずつ天引きされるのであるから,群衆の習慣を妨げず,大して影響を及ぼさない。これのかわりに,給料や他の収入に課せられて,一時に納入すべき比例税のようなものを採用すると,たとえその負担が間接税より十倍軽くても,よをあげての抗議が巻き起こるであろう」「陪審裁判が,各陪審員個人としては否決すると思われるような評決を下すのも,議会が,それを構成する各議員個人としては否認すると思われるような法律や政策を採決するのも,以上の理由によるのである。かの国民公会議員たちも,一人一人切り離してみれば,温和な習慣の市民であった。それが,集合して群衆になると,数人の指導者に影響されて,明らかに罪のない人々をも躊躇なく断頭台に送ったり,自分のあらゆる利益に反し,議員としての不可侵権をもなげうって,たがいに殺戮しあったりした(ヴィクトル・ユーゴーをはじめとする文化人の演説がいかに国会でヘタレであったか…はリアリティがあったw)」「群衆の同情は,決して好人物の指導者たちには注がれず,自分たちを猛烈に圧迫した専制君主たちに注がれたのである。群衆が最高級の彫像をささげるのは,常にこうした専制君主に対してである」なんてあたりは笑えたわ。