- 作者: 荒松雄
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1993/11
- メディア: 新書
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ヒンドゥーとムスリムは勿論,アラブ,トルコ,ペルシャ,アフガン,モンゴル,更には大英帝国…という多重性の妙。しかし,それ以上に面白いのは筆者の個性的な文章である。「だが,この湿気の強い夏にもいい点はあった。湿った暑さのために,身も心も文字通り丸裸になる瞬間があるからだ。…湿った夏にはもっと露骨な感覚に支配される。心のなかまでさらけ出したくなるような感じに襲われるのだ。朝起きた瞬間,シーツがぐっしょり濡れている。よく見ると,その濡れた部分が人型になっているのだ。暑い時のセックスでは人は汗まみれになり,ひたすら営みに耽る。湿度の高い暑さの中では,人は羞恥心を失くしてしまうのだ。ムガルの王も貴族も同じような気分になったに違いない」なんて皮膚感覚もだが,終章におけるインド現代史との関わりが実感を伴って活写されていて,とても学者の文章とは思えないのだった。