新編滝口雅子詩集 (新・日本現代詩文庫 (21))

新編滝口雅子詩集 (新・日本現代詩文庫 (21))


詩は硬質で難解なのだが,処処に現れる不意打ちのように生々しいエロスが面白い。室生犀星(←この人の小説も変態性が強い)の少女たちとの晩年を綴ったエッセイがユーモラスで滝口雅子の違う一面が垣間見え,興味深い。以下例によって,気に入った部分を写経。

死ぬことを死ぬこととは思わずに/夜明けをたしかめる一つの暗さであると/夜明けの星の光は「朝」に呑まれていき/やさしさが きびしさのなかにかくれる/お互いの唇を唇におしあて/お互いの手と手でたしかめるわれらの夜を/夜のやさしさを しっかりと/われらのものにするために(歴史Ⅱ)
わたしに集る人たち/ひとりは激しい欲情線をえがき/ふしぎなたそがれに光りながら/ひとりはわたしに傘をさしかけようとして/ひとりひとりをへだてる暖いつめたさ/からだの外に出られないで苦しんでいると/いつも黙ってわたしに集る人たち/愛するための憎しみに匂いながら/うす暗がりに目をあきながら/それでも歩きつづける人たち(愛する人たち)
それは栗の木の下/椅子の上の暗緑の/二人の抱擁の時間をめぐり/抱擁のあとのけだるさをめぐり/親からつたわる/愛の営みの意味を証しして/あたらしい人間のすがたに向って/吹きあげる(すこやかな現実)
丸っこいよく引きしまったお尻が/酢で食べるとうまそうな/こりこりとした/若もの/小石も沈まない清流かと思うと/幾百尾の魚が住んで,うろこを光らせる/一日のうちに 幾度も照りかげりする/若もの/語りかけようとして身を乗り出すもの/ふいにやめて蒼ざめるもの(若もの)
人間のにおいが/雨にまじって地面にはねかえる街/雲が小さくちぎれてとぶ街/近ごろ感動を見失ったと語るひと/感動のない時間の硬さを知っているひと/実験室の/ホルマリン漬けの生体に/世界がだぶってうつっていた/瞳孔は/涼しくひらいた絶望/雨にぬれたガラス/葡萄酒をたっぷりと/ぶっかけたい(科学者)
少女のスカートは風に巻かれ/少女の肢体は/みどり色の猫になって/風の輪のなかにある/森は少女をねらっている/光のメスがふるえると/かがやきは消えて/やさしさはたち切られて/未来はとび散る/とび散る少女の足の指には/ひきさかれた太陽の輪が/かっちりとはまっている/地上に影をもたない太陽の/爆発する孤独/森の上の窓にブラインドが下りて/白いひたいの野で殺りくは行われる(恐怖)
花のつぼみの/少年のちんぽこ…/女の肌には/樹氷がびっしり生えている/町は冷えきって/やさしいものはみんな/氷のなかにあった(凍る)
五月になると/霧島つつじの花は/処女の血のように燃える/わたしたちの性も/さわやかに蒸発して/欅の樹をのぼる/そして/美しい風音をたてる/ひとは/しゅう雨がきたのだ/と思う(驟雨)
ひとは/眠れない夜をこわがる/眠っている間の・知らない時間を/ひとはなぜ/おそれないのだろう/眠れないときに/目をさましてくるものを/ひとは見まいとする/列につらなることで安堵し/列の前の列の/ずっと前にあるものを/見ない/習性(夜に)
肩にきてとまる鳥は/目から言葉をこぼしているのに/空は かぎざきのまま/言葉を血のいろに変えている/わたしたちの空 今日の/鳥のあしが羞恥に紅らむ/なぜ?/ひびわれた空に/爆音はこもっていないかいるか/鳥はくちばしをつっこんでいく/明日の空に(明日の空)
軽薄な手が/青空を/鉄板の上に/たたきつける/未来につづいていた/空/死や夕映えやみぞれの/ガラスやジュラルミンの反射の/空が/熱い鉄板の上で/やける/そり返って/割れる/軽薄な手が/生コンクリートのとろとろの/泥に眼球をおとす/とりわけすぐれて/よく見える眼を/うずらの卵をおとすようにおとす(軽薄な手が)
ひと月に一度/みちてくる/祭のざわめき/そこだけがういういしい/唯一の恥じらい/りちぎな空 容赦ない刑罰/地球をその円さに沿って/抱き得なかった女にも/訪れる/ひと月に一度/近付いて遠のく/女の祭り/その確実さが悲しさ(女の祭り)
五月がわたしをせきたてていた/十九歳のわたしの耳に/鈴を鳴らして…/アカシアの白い花房が/波を透かしてかおり,ゆめは見ていないというゆめが/わたしを洗った/海の底では/砂にもぐる魚の眠り/海藻はのび/ウニはうずくまる/玄界灘/その前にうしろに/故郷はなかった(回想の玄界灘

前走,福寿草特別の勝ち方に素質を感じた。JPの仔だけに中山だけが不安だけど,ここは単勝で勝負したい。 tascata sorte の tascata は「ポケット一杯の」だが,sorte は「運,境遇,偶然,資金,クジ」のどの意味になるか? ポケット一杯とは云わないが,せめて小銭入れ一杯の配当が欲しいぉ><